セバスチャン・サルガド「蒼氓」(SWITCH Vol.33 No.3より)
写真家セバスチャン・サルガドは、40年もの長い間世界を伝える秀れたドキュメンタリー作品を発表し続けている。見事な構図、様々な表情を湛えた人々、悠久の大地、劇的な瞬間と、そのジャーナリストとしての真摯な姿勢は特筆される。
スイッチがサルガドのインタビューをしたのは1992年の事だった。圧倒的に美しく堅牢な南アメリカの辺境を記録した写真とともに誌面を飾った。それから四半世紀の時を経てサルガドは新しく“Genesis”というプロジェクトを展開、ソウルで写真展を開催していた。2004年から始まった“Genesis”は、地球上の最も美しい悠久の場所を求め、ガラパゴス、アラスカ、サハラなど120カ国余りで撮影された。熱気球から撮ったカリブーや水牛の群れ、遊牧民のネネツ族のシベリア横断、サンドウィッチ諸島での“ペンギンの楽園”など、まさに移動をテーマにサルガドの自然に対する思いを具体的にしていた。そのプロジェクトを追った息子ジュリアーノはヴィム・ヴェンダースと共同でドキュメンタリー映画“The Salt of the Earth”を完成させていた。
その強い意思を現すように顎が張り、髭をたくわえ眼光鋭く、かつての筋骨隆々とした風貌は影をひそめ、まるで思慮深い哲学者のようなスリムな姿でサルガドは眼の前に現れた。エチオピアの難民キャンプを取材した際、水もなく不衛生な中で撮影をしたことで疫病にかかり、寄生虫対策からスキンヘッドにしたと言いながら頭を掻くそぶりが印象的だった。
サルガドはかつて自身の作品のスタイルをこう語ってくれた。
「決定的な瞬間には興味がない。私にとって興味は曲線状に発展していくもの、変わっていくもの。そこに自分自身も変わっていくことだ。それは作品に広がりと深さを与える」
時を経て、風貌の変化も誇り高き作品となると思った。
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- Posted on 2015/2/25