佐藤秀明インタビュー 「ユーコン、旅人の川を語る」 聞き手 新井敏記
佐藤さんは世界の辺境を旅して自然とそこで暮らす人々の営みを撮り続けてきました。
今回旅したユーコン川は、カナダからアラスカを経てベーリグ海へ注ぐ全長3200kmの大河。悠久の自然を流れる雄大な川です。佐藤さんはカナダのホワイトホースからドーソンまで約650kmを、筏とカヌーで旅をしました。
ユーコンは先住民の言葉で「大河」を意味します。
佐藤さんの冒険は一万年前に大地が氷河で覆われたころの物語を、僕たちに見せてくれています。
佐藤さんへのインタビューを、今回WEB限定で全三回に分けて掲載致します。
インタビュー=新井敏記
第一回
岸辺の光景
──佐藤さんの『Yukon』を見て、改めて風景写真っていいなと思いました。佐藤さんは一枚一枚を愛おしく撮っています。
佐藤 ユーコン川を下ったのはこれで3回目になります。過去2回はあまり写真を撮ろうという想いにはいたらなかった。ただいるだけで幸せだったんです。岸辺で川向こうの風景を見ているだけで幸せで、気持ちよかったから。
──カヌーイストの野田知佑さんは、佐藤さんの写真集の解説でユーコン川をこう記しています。
「ユーコンは多分、世界でも最も上質な荒野を流れる川だ。ぼくは友人や犬を連れて、十数回この川の本流や支流を下った。が、いつも最高のアウトドアを楽しめた。この人の少ない荒野には、キリスト生誕の頃の自然が未だに残っていて、現代生活に疲れた人々を癒してくれる。こういう川がまだあるということに感謝したい。日本の川のような浅瀬や急流がないから、初心者でも漕いでいける。つまらない開発などせず、2000年前の自然の面影を留めた自然がいつまでも楽しめることを祈る」
佐藤 野田さんは川そのものが好き。僕は川の周辺の風景が好きなんです。カヌーに浮かんでいると風景がどんどん流れていく。僕はカヌーの上に乗ってじっとしている。
──漕ぐわけではなくただ川の流れに身を任せている。ある意味自然に一番近い乗り物でしょう。
佐藤 そうです。時速10ノット。水面に一番近い。立っている高さと座って乗っている高さ、水との距離が近い。そうすると動いている風景も違うんです。不思議な感覚です。
──その不思議さがカヌーの魅力ですね。川を下るって何が違うのか、もっと教えてください。森の中を歩く、山登りをする。岩を登る。氷河を渡る。それと何がいったい違うのでしょう。
佐藤 カヌーで川を下っていると、まるでシネマスコープの世界の中を進んでいるような感覚になります。どんどん画面が動いているんです。飛行機で見る風景、バイクで流れる風景、それとは全部違う。静かで音のない世界なんです。
──自然との一体感ですか?
佐藤 自然と自分の間に違和感がまったくなく、一体化しているんです。無理して自然に入るのではなく、周りが受け入れてくれる。過去のユーコンの旅はアウトドアを楽しむという目的がありました。釣りを楽しみ、動物を見て楽しみ、キャンプを楽しむ。
──今回の旅は写真を撮るという目的があったのですね。
佐藤 前回までは、ここも撮っておけばよかった。あそこも撮っておけばよかったという後悔が旅から帰ってきてあったので、よし今回はそのリベンジ、という目的がありました。帰ってくると、いろいろな風景が走馬灯のように過るんです。
──宿題が山積みになっていたということでしょうか。自然って変わるから早くしないと、という切迫感はありましたか。
佐藤 ないです。変わらないんです、ユーコンは。
──それはユーコンの魅力ですね。ユーコンでなければならないという。
佐藤 野田さんが書いていらっしゃったように、上質の荒野を流れる川なんです。安全できれい。手つかずの自然が残っている。流域に町は少なく、汚水もそんなに入らない。そのままの勢いで流れている。岸辺に立つと目が回る程の速さで流れているのがわかる。音もなく。
──つい引き込まれそうになる?
佐藤 そう。ものすごい水量がある。
第一回
第二回
第三回
写真展「ユーコン」 佐藤秀明+新井敏記 トークイベント 2014.9.15@リコーイメージングスクエア新宿
佐藤秀明写真集『Yukon』
- Posted on 2014/09/05