【本誌未掲載部分を公開!】 SWITCH vol.35 No.2 INTERVIEW YONCE Suchmos


INTERVIEW

YONCE Suchmos



アルバム『THE KIDS』が大ヒットし、改めて2017年の主役は自分たちだということを証明してみせたSuchmos。そんなバンドの魅力のひとつが、噓偽りのない等身大の言葉で紡がれたリリックだ。フロントマン・YONCEはリリックにどんな思いを込めているのか。SWITCH 2月号(Vol.35 No.2)掲載のソロインタビューには収まりきらなかった未掲載テキストをここに特別公開

PHOTOGRAPHY: TOYAMA TAKUROH  TEXT: ITAKO JUNICHIRO


シニカルなリリック

──Suchmosはデビュー当初から“オシャレ”と言われたり、“シティポップ”という括りで語られ、そういうイメージで見られることが多かったと思うんです。でも実際のスタンスはそことは真逆だと感じていて。

確かにそういうイメージで語られることは多かったですよね。でも、リリックを見てもらえれば俺らの本質が伝わるかなと思います。『THE KIDS』で言えば「TOBACCO」が特に顕著かもしれないけど、すごくシニカルな視点から書いているリリックが多い。まあでも、そういう部分をキャッチしてくれている人がどれだけいるかはわからないですけど。

──リリックに込めた真意を受けとめているリスナーももちろんいるとは思いますが、多くの人を惹き付けているのは洗練されたサウンドやバンドの佇まいみたいなところなのかなとも感じます。

リリックについてもサウンドについても、俺はどう捉えてもらってもかまわない、とも思っていて。『THE KIDS』という作品が出ましたけど、このアルバム自体が、これまで親しんできたSuchmosのサウンドやバンド像とはまた違った一面を表現した作品になっている。そういうふうにバンドのイメージを常に更新し続けていくことが大事だと俺は思う。たとえば、リード曲の「A.G.I.T.」を聴いてみんなが「超オシャレだよね」というふうになったら最高だし、俺ら的には狙い通りというか。

──狙い通りというのはどういうこと?

俺らの意真を掴めなかったとしても、こういう音楽がカッコいいんだと受け取ってもらえれば、聴いた人の音楽に対する価値観や考え方に少しでも変化を与えることができたということになるかもしれない。そういうことを繰り返すことでより多くの人たちが俺らだけじゃなく、本当に素晴らしい音楽に出会う機会が増えていくと思うんです。

名曲「MINT」に込めた思い

──「STAY TUNE」はバンドの存在を世に広く知らしめた1曲となりましたが、「MINT」という曲は速いテンポの楽曲が溢れている今の時代に対して、ミドルテンポでスケールの大きなメロディを紡いだアンセムだと思います。

「MINT」は俺とKCEEが一昨年の夏に自動車教習の合宿に行っていた時に2人で原型を作って、歌詞も一緒に出てきた感じです。それからスタジオに持っていってみんなで詰めていきました。できたのは2015年の9月ぐらいかな。

──TAIKINGさんはスタジオで初めて「MINT」を聴いた時に、デカイ場所で演奏している絵が浮かんだと話してくれました。この曲のリリックは等身大のYONCEさんの思いが込められているように感じました。

教習に行ったのが、『THE BAY』のリリースパーティが終わった後で、やっとここまで来れたな、という実感がすごくあったんです。メンバー6人で音楽を自分たちの一番望ましい形で作ることができて、それを世の中に広めてくれるスタッフが周りにいてくれる。そしてライブハウスにはたくさんのオーディエンスが集まってくれる。そういうバンド愛、そしてバンドを取り巻く環境への愛というものをリリックを書いている時に考えていたんです。あとは、俺たちはとにかくライブハウスで遊び、そこで育ててもらったので、ライブハウスという場所への愛というものもあると思う。床にこぼれたビールの匂い、ベタベタした床の感触、アクトが始まる前に一気に会場が暗くなる瞬間、そして袖からステージに出ていく時の何とも言えない高揚感。そういう感覚だけは一生変わらないんだろうな、と思うんです。すごくピュアな自分の気持ちを素直に書いたのがあのリリックなんですよね。

──リリックを書く上では自分自身が感じたことを言葉にするという大前提があると思いますが、そうして生まれたリリックが自分たちの世代を映す鏡のようなものになっているようには感じますか?

どうなんだろうな……。でも、英語のリリックについては結構ノリで書いてる部分もあって。だからかなりブロークンイングリッシュなんですけど、日本語でしたためている部分では、なるべく美しい言葉遣いを意識しているかな。たまに文法のルールを破っちゃってる時もありますけど、できるだけ日本語として変じゃないものを書こうという気持ちがあります。


言葉に対するこだわりの源

──美しい言葉の響きを大事にしているんですね。

そうですね。それはこれまで自分が読んできた本とかへのリスペクトみたいなところもあって、だからこそ若者言葉みたいなものはできるだけ使わないようにしていて。もちろん、今の時代のキーワード──たとえば、iPhoneとかタブレットみたいなワードを取り入れることは今後あるかもしれないですけど、それ以外の部分ではしっかりとした言葉遣いをしなくちゃいけないと思っています。

──自分が書いたリリックに普遍性を持たせたいということ?

そういう気持ちもありつつ、でも一方で俺たちと同世代の人が「確かに!」と思うような部分もあるかなとは思います。やっぱり自分自身も今この時代を生きているわけだから、自然と世相を反映したようなリリックになっているとも思うし、でもわざとらしく今の時代に乗っかったような言葉を使いたくはないですね。

──さきほど読んできた本の影響もあるとおっしゃっていましたが、普段からよく読書はしているんですか?

最近はあんまり読めていないんですけど、小学校ぐらいの時からずっと本の虫でしたね。

──好きな作家などはいますか?

特定の作家さんを重点的に読むというよりは、面白そうだなと思うものを片っ端から読んできた感じです。小学生の頃はハリー・ポッターシリーズのような児童書を読んでいて、小6の時には『池袋ウエストゲートパーク』にハマりました。入り口はテレビドラマで、好き過ぎてDVDボックスを誕生日に買ってもらったぐらい(笑)。そういうきっかけがあり、石田衣良さんの作品はかなり読んでいます。そこから今度はレイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウのシリーズや『ライ麦畑で捕まえて』を読んで。あと、俺は『星の王子さま』のサン=テグジュペリは素敵な作家さんだと思います。特に『夜間飛行』は最高の本だと思う。

──小説以外の本はどうですか?

自伝的な本も好きですね。自伝は、その人の人生に起こったことを書いていく、いわば冒険潭だと思っていて。最近印象的だったのは小澤征爾さんが書いた『ボクの音楽武者修行』。小澤さんは25、6歳の時に指揮の修行をするために原付一台で貨物船に乗ってフィリピンとかを経由してフランスを目指すんです。そこで指揮の大家みたいな人に師事して、コンクールに出るといきなり賞を獲ったりする。俺と同じぐらいの歳でヨーロッパに上陸した瞬間からすでにカマしてたんだ、最初から“世界の小澤”だったんだ、と思って、衝撃を受けました。他にはパティ・ボイドというジョージ・ハリスン、エリック・クラプトンといったロックスターの妻だった人の自伝もすごかった。彼女は白人なんですけど生まれがケニアで、地平線の向こうに太陽が沈むのを見るのが日常だった、みたいなことも書いてあって、すげーなと思ったり。あとはマイク・タイソンの自伝も面白かったかな。自分はこれまでの人生でそんなにたくさん旅をした経験があるわけではないんですけど、映画だとロードムービーが好きだし、流浪することに対する憧れを高校生ぐらいからずっと抱いているんですよね。誰かの自伝を読むことで自分もその人と同じような旅を擬似体験できるというか。もちろん今の俺はバンドマンですから、ツアーでいろんな場所を旅することもできる。それはバンドマンという職業の醍醐味のひとつだと思います。




▼YONCE’s Favorite Books

①J・K・ローリング
“ハリー・ポッター”シリーズ

②石田衣良
“池袋ウェストゲートパーク”シリーズ

③レイモンド・チャンドラー
“フィリップ・マーロウ”シリーズ

④サリンジャー(訳:野崎孝)
『ライ麦畑でつかまえて』

⑤サン・テグジュペリ
『星の王子様』『夜間飛行』

⑥小澤征爾
『ボクの音楽武者修行』

⑦パティ・ボイド、ベニー・ジュノー/訳:前むつみ
『パティ・ボイド自伝 ワンダフル・トゥデイ』

⑧マイク・タイソン
『真相──マイク・タイソン自伝』


▼プロフィール
YONCE 
1991年、茅ヶ崎生まれ。かつて組んでいたOLD JOEというバンドの解散を機に、Suchmosでの活動に専念することに。現在、Suchmosのセカンドアルバム『THE KIDS』が発売中。3/2からは“TOUR THE KIDS”がスタートする。
www.suchmos.com


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SWITCH Vol.35 No.2
Suchmos
THE KIDS are Alright

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