SWITCH SPECIAL対談 新海誠 × 川村元気 (後編)

   PHOTOGRAPHY:GOTO TAKEHIRO


SWITCH スペシャル対談
新海誠 × 川村元気


もはや説明不要の大ヒットを続けている映画『君の名は。』。その監督とプロデューサーとして制作を共にした、新海誠と川村元気の対談が実現。『SWITCH』12月号(Vol.34 No.12)掲載の記事では、映画『君の名は。』と川村による新刊小説『四月になれば彼女は』という2つの「恋愛」にまつわる作品を題材に、2人が「ラブストーリー」にどうアプローチしたのかを語り合ってもらったが、その記事には収まりきらなかった未掲載テキストをここに特別に公開


《 後編 》

場外ホームランは狙えない


新海 川村さんに一度お聞きしたかったんですけど、海外はともかくとして、国内で僕らが全然予想していなかったような数字(興行成績)になっているじゃないですか。それを川村さんはある程度予測していたんですか?

川村 お互いその質問は散々されていると思いますし、僕も百回ぐらいされたんですけど(笑)、わかっていなかったですよね。新海さんと最初に話したのが、今回新海さんが東宝で夏のアニメーション映画を作るとなったときに、作品の規模が大きくなったからといって、それまで普段Tシャツを着ていた人が、急にタキシードを着て出てきたら駄目だよね、ということ。ちょっといいTシャツぐらいにしておかないといけない。つまり普段の新海さんの世界観でやるということは決めていたんです。そうなったときに、前作の『言の葉の庭』を観た人たちが10万人ぐらいで、そのファンは絶対に来てくれると思っていたし、それが100万人になるぐらいはあり得るかなと思っていたんですけど……。

新海 それが1000万人ですからね……。

川村 まったく予想していなかったですね。プロデューサーとしてそれでいいのか、と思いますけど(笑)。

新海 僕が予想できないのは当然じゃないですか。でも川村さんは何本も映画を作っていて、『君の名は。』と並行して作っている作品もあった。その中で、この作品にだけ何か特別な手応えみたいなものを感じていたのかどうか。どうなんでしょう?

川村 ちょっと乱暴な話なんですけど、僕は作るときにはあまりお客さんのことを考えていなくて、一生懸命自分たちが「作りたい」とか「観たい」と思うものを作るしかないと思っていて。それが結果的にホームランになることもある。でも、僕は絶えず二塁打狙いなんです。大振りして三振するのもよくないし、コンパクト過ぎる振りでもよくない。二塁打ぐらいいけばいいと思ってスイングすると、たまにあるじゃないですか、真芯に当たって場外ホームランみたいなことが。それが今回のケースかなと思うんです。何か新しいサジェスチョンをすること、新海さんの今までの集積を型を崩さずにきちんとやること、それだけをやれば負けはないかなとは思っていました。でも確かに、映画が出来上がった頃はウチの宣伝部とかが異常に騒いでいましたよね。「これはスゴい!」って。

新海 東宝の内部での反響は確かにありましたね。昨年の12月の製作発表用に最初のトレーラーを出したときに、それを観た副社長の千田さんに「これは300館で公開しましょう」と仰っていただいて。

川村 そう、急に言い出して。それで公開館数を増やしたんですよね。

新海 今までの自分の作品からしたらそれまで聞いていた予定公開館数も既に十分大きな規模だったんですけど、あの1分のトレーラーでそう言っていただいたというのは、何かを感じてくださったんだなと思いました。そこから宣伝部さんの中でも徐々に熱が高まっていったような感じがあって、心強かったですね。




川村 でもこれだけヒットすると、いろんな人から「すごいプレッシャーでしょう!」とか「次、大変でしょう!」とかすごく言われませんか?

新海 言われますね(笑)。

川村 でも僕も新海さんも実感がなさすぎて、プレッシャーを感じようがないというか……。

新海 そうですね。でもそう言うと印象が悪いから、「ちょっとプレッシャーです……」と言ったりして(笑)。

川村 僕も同じです(笑)。「新海さんは恐いんじゃないですか?」って人におしつけたりして。

新海 でもプレッシャーとかを感じようがないですよね。

川村 そうですね。

新海 今回、コントロールして場外ホームランだったわけではないですし、再現性がありようがない。再現を狙った時点で、もう何かを間違えている気もしますし。ベストを尽くすしかない、ということはこの先も今までとまったく同じですよね。

川村 でも、映画の夢みたいなものを感じた、というのは綺麗事ではなく思いました。ディズニーみたいな人たちが何百億もかけて作る映画と、我々が日本で数億円で作る映画が、イーブンに映画館という場所で戦って、こういう大勝利になることもある。もちろん負けることもあるけど、わからないことが起き得る。だからこそ、より自分たちの作りたいものを丁寧に手を抜かずに作るしかないんだと改めて思いました。

新海 可能性があるんだ、というのを教えてもらった気がしますよね。今の川村さんのお話にもありましたが、例えばピクサーの作品よりも興行収入で上に行けるなんて想像もしていなかったですし、無意識のうちにも不可能だと思っていましたから。世界規模だとまた話は別でしょうけど。でもそうではないことが起こり得るというのは、それこそ夢でもあるし、またできるかもしれないという気持ちにもなるし、誇らしい気持ちにもなりますよね。

川村 ただ、最近知ったんですけど、どうやら『ズートピア』と似た作り方をしていたらしいんです。『ズートピア』は大量のラッシュリール(※制作途中段階での試写用の本編映像)を作って、ラッシュを観てはアニメーターが直して、という作業を何度も何度も繰り返していたらしいんです。ものすごくお金がかかるから普通はそんなことはできない。でも『君の名は。』チームもお金をかけないでそういう作業を行なっていましたよね。新海さんが自分で描いて自分で声を入れて、それを僕らが数人で観て、ああだこうだ言って、新海さんがまた自分で直す、という(笑)。回数だけで言えばそういう作業はピクサー以上にやっていたかもしれない(笑)。実はこれは日本の映画の中ではかなりユニークな作り方だと思います。

新海 かかるのは僕のリビング・コストだけですからね(笑)。

川村 お金はかからないけど、新海さんは消耗し続ける、というやり方(笑)。ただ、これは新海さんが一人でアニメを作ってきた人だからできること。ハリウッドの完成されたシステムの中で、すごいコストをかけてやっていることが、新海さん一人の力でできる。そのおかげでみんなで意見を出し合って、いろんな検証をして、という作り方ができた。この作品の強さを生んだ理由の一つだと思います。



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*対談本編はSWITCH本誌でお楽しみください


新海誠
1973年生まれ。アニメーション映画監督。2002年、個人制作の短編『ほしのこえ』でデビュー。その他の作品に『雲のむこう、約束の場所』。『秒速5センチメートル』、『星を追う子ども』、『言の葉の庭』など

川村元気
1979年生まれ。映画プロデューサーとして今年は『君の名は。』、『怒り』、『何者』を製作。『四月になれば彼女は』は、『世界から猫が消えたなら』、『億男』 に続く3作目の小説。他に対話集『仕事。』、『理系に学ぶ』など


<作品情報>



『君の名は。』
原作・脚本・監督:新海誠
作画監督:安藤雅司 キャラクターデザイン:田中将賀 音楽:RADWIMPS 声の出演:神木隆之介、上白石萌音 ほか
★現在公開中
http://www.kiminona.com/index.html
(C)2016「君の名は。」製作委員会




『四月になれば彼女は』
川村元気・著 文藝春秋
かつての彼女からの手紙を受け取った結婚間近の男が、失われた恋に翻弄される12カ月を描く。文藝春秋の特設サイトでは新海誠と星野源による推薦コメントを公開中。
★現在発売中
http://hon.bunshun.jp/sp/4gatsu



SWITCH Vol.34 No.12
古舘伊知郎
TALKAHOLIC
しゃべくる魂 テレビ屋の反乱

対談:新海誠 × 川村元気
『東京から恋愛が消えた?』
『君の名は。』と『四月になれば彼女は』掲載!
★現在発売中 https://www.switch-store.net/SHOP/SW3412.html


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