10 days 行商日記 in New York #day8
今年6月、安西水丸さんのシルクスクリーン作品をまとめた『ON THE TABLE』が出版社Baciから刊行された。
Baci代表の内田有佳さんは新刊を胸にNYへと旅立った。
届きたてほやほやのNYでの行商風景をお届けします
#8日目
再び、あの書店を訪ねる。
昨晩、安西さんの『手のひらのトークン』を読み終わった。若き日の安西さんがニューヨークで感じた不安や葛藤。それらが率直に綴られたこの小説に、なぜか勇気づけられる日々だった。あとがきには、9割が真実の出来事だとあった。
読み終わった本を鞄につめて、McNally Jackson Booksへ向かった。
マクナリージャクソンでは、今日もたくさんの人が思い思いに過ごしていた。椅子に座って熱心に本を読む人、併設のカフェで勉強をする人……。ニューヨークは書店が減ったという話をいろいろなところで聞いたけれど、ここに来るとそんな空気は微塵も感じられない。平日でも本当に賑やかだ。
担当のカーリーと初対面。もう一度検討してくれたことにお礼を言う。カーリーは安西さんの絵を以前どこかで見たことがあるという。造本も日本らしいミニマルな世界で気に入ってくれたそう。このくだりはMitsuさんが通訳してくれた。ただ、前回断ってしまったのは掛け率がネックになっていたとのこと。掛け率を相談し、3冊を納品した。そしてまたカーリーの写真を撮り忘れる……。
最後にMitsuさんに安西さんの『手のひらのトークン』を渡した。この本をニューヨークに置いていきたいと思っていたので、Mitsuさんにもらってもらえてよかった。
その後、MAST BOOKSを訪ねる。営業初日にサンプルを預けたまま、連絡をもらえてなかったのだ。半ば諦めつつ、店にいたMattという青年に尋ねると、オーナーから言付けがあるという。まずは1冊置いて、その動きをみて考えてみるとのこと。このサンプルをそのまま売るから預からせてほしいという。1冊でも置いてもらえることに感謝!Mattにお礼を言って、店をでた。
MAST BOOKSもカウントすると、取り扱いは3店舗。出発前は1店舗でも見つかれば、と思っていたので万々歳ではある。が、残り1日半でもう少しできることがあるのでは?と思い、再びDashwood Booksに向かうことにした。
二日続けてのDashwood。どうして訪れたのかというと、昨日は声をかけられなかった店主に、挨拶をしようと思ったのだ。今後、写真集を出版することもあるかもしれない。安西さんの本を純粋に見てもらいたいという思いもあった。
“あなたにプレゼントしたい本がある”と切り出すと、店主のデイビットは快く応じてくれた。昨日と同じストライプのパンツを履いていたのもよかった。あぁ、昨日の君だね!と覚えていてくれた。
『ON THE TABLE』を手渡すと、クロスや箔押し、印刷の調子まで舐めるように見てくれた。そして、あるページを指差して“この緑色を出すのは難しかっただろう?”と一言。その通りで驚いた。
そしてデイビットは掛け率や納品数について次々に質問してくれた。驚きつつ答えると“それじゃあ、明日5冊持ってきてくれ”という。
Dashwoodは写真集専門だと思っていたので、この展開には本当に驚いてしまった。持ってきた20冊はこれですべてなくなることになった。
Dashwoodを出て、気持ちを落ち着けるためにコーヒーショップに入った。メールボックスを開くとRIZZOLIの担当者からメールが。本の取り扱いをしたいので、明日お店に来てほしいという。嬉しくて叫び出したい思いを堪えるのに必死だった。取扱店は一気に5店舗になった。
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《 INTERVIEW 》
-- 安西水丸『ON THE TABLE』ができるまで --
Baci 内田有佳さん
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《プロフィール》
内田有佳 うちだ・ゆか
1982年生まれ。編集者。Baci代表。 大阪芸術大学映像学部を卒業後、編集プロダクション勤務を経て、フリーランスのエディターとして活動する。2016年、出版レーベルBaci(バーチ)を立ち上げる。
http://bacibooks.com/
安西水丸
『ON THE TABLE』
2014年に急逝したイラストレーターの安西水丸。アトリエに残された作品を整理するなかで見つかった個展のためだけに制作された、シルクスクリーンの作品をまとめた一冊が完成。
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《関連イベント》
『ON THE TABLE』刊行記念トークイベント
<出演>
前田晃伸(デザイナー・アートディレクター)
山﨑杉夫(イラストレーター)
内田有佳(編集者・Baci代表)
ゲストは『ON THE TABLE』のデザイナーを務めた前田晃伸さんと、安西水丸塾で学んだイラストレーターの山﨑杉夫さん。この美しい一冊ができるまでのストーリーや、安西さんの作品についてじっくりと語っていただきます。
<日程>
2016年9月23日(金)18:30 OPEN/19:00 START
<会場>
Rainy Day Bookstore & Cafe
東京都港区西麻布2-21-28 スイッチ・パブリッシングB1F
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