日本各地の食を伝える一冊
旅のこしらえとして人は愛しい者と食事をする。
旅に出る前、植村直己のごはんは、とろろにたまごを入れたぶっかけごはんと冷やっこだった。星野道夫はアラスカから日本に戻ったとき、きまって母親にトンカツをねだった。山野井泰史はパキスタンのフンザ地方のレディース・フィンガーの南壁のキャンプで、カレーのことが脳裏に浮かんでいた。
旅の途上にて、人を勇気づけるのは食の記憶なのかもしれない。何を見てきたか、何を食べてきたのかが、旅人の顔を作る、とジャック・ロンドンが言う。ジャック・ロンドンは放浪時代、食料がなくなると、きまって貧しい家に行って物乞いをした。貧しい家こそ腹を空かせた旅人が最後の頼りにするところだ。本当に人の恵みを与えることができるのは労働で疲れきった顔の母親だった。金持ちのお慈悲はあてにできない。余分なものなどない貧しい家。彼女は自分たち自身が必要としているものの中から旅人に分け与えてくれたのだ。
おかえりという言葉は何も旅のおわりを意味する言葉ではない。
2014年3月15日発行
● 藤代冥砂 空と原の気配
● 古波蔵保好の旅の行方 文=与那原恵
● 古波蔵保好エッセイ [美味なるらふてえ][おめでたい揚げ物]
● 旅人の軌跡
● 古波蔵徳子 保好の幼い記憶にかえて
● 徳子さんのおかえりごはん
● 神髄 「美榮」の先駆者古波蔵登美の琉球料理復興にかけた情熱
● 美榮のレシピ
● 阿部了/阿部直美 阿部家のおべんとうの時間
● 石塚元太良/川内倫子/梅佳代/野口里佳/柴田元幸/角幡唯介/内澤旬子/角田光代
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● 片岡義男 大瀧詠一追悼 物語はこのように始まり、このように終わる
● ミランダ・ジュライ ロン 訳=岸本佐知子
● 枝元なほみ 下田昌克 無責任編集 Pemmican #1 EGG
● 平松洋子 はじまりのたまご
● 伊藤比呂美 究極のたまごかけごはん
● パタゴニア・プロビジョンの新たな挑戦
● 酔夢行 黒田征太郎
● 水草物語 池田晶紀
● 東京私書箱「悲しき写真」 新井敏記
● ギターとともに旅に出る
● 戌井昭人 ふらふら