片岡義男の「北回帰線」的短編小説集
1960年代の東京で、青年は小説家としての一歩を踏み出す。それは孤独という完璧な幸福へいたる道ー。青年はいったい何を見たのか。幻をめぐり、世界は動く
2007年7月19日発行
目次
○ アイスキャンディは小説になるか
○ 美しき他者
○ かつて酒場にいた女
○ 三丁目に食堂がある
あとがき
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これまでの自分が終わっていくと同時に、そのような自分が生きて来た時代というものが、湯沢が熱心に説くように、終わりを迎えている。
これまでの時代とその次に来るべき時代とのあいだで、自分の足もとにある深い亀裂の幅が、急速に広がりつつある。これまでと決別して、どこかへ向けて、自分はその亀裂を飛び越えなくてはいけない。このようなことを意識のすぐ下あたりで自覚しているはずの自分は、どこかへ向けて亀裂を飛び越えることに、いかに淡くはあっても、恐怖は感じているのではないか。
これまでの締めくくりとして、そしてこれからを始める足場として、自分が書かなくてはならない一冊の本とは、朱音と何度か語り合ったとおり、長編小説になるのだろうか。__「美しき他者」より