左から柴田元幸さん、早稲田大学総長・鎌田薫さん、
アーサー・ビナードさん
小誌『MONKEY』の責任編集を務める柴田元幸さんが11月6日、「第六回早稲田大学坪内逍遙大賞」を受賞し、その授賞式に出席しました。
「早稲田大学坪内逍遙大賞」とは、早稲田大学の文科(のちの文学部)を創設した坪内逍遙氏の功績を顕彰するとともに、その精神を未来の文化の新たな創出につなげたいという思いから、同校が2007年に創設したもの。文化芸能活動に大きな貢献をなした個人または団体がその対象となります。
明治時代に小説や、評論、劇作、翻訳など多岐にわたる領域で活躍した坪内逍遙氏。中でも翻訳活動を通した近代日本文学の成立に深く携わっており、その活動は『MONKEY vol.12 翻訳は嫌い?』『MONKEY vol.13 食の一ダース 考える糧』の2号にわたり掲載した「日本翻訳史 明治篇」でも紹介しています。
今回「大賞」を受賞したのが柴田さん、そして「奨励賞」を受賞したのが詩や俳句、翻訳など多方面で活躍されているアーサー・ビナードさんです。
■受賞の3つの要因
選考委員長で作家の高橋源一郎さんは、来場者に配られたパンフレットの中で柴田さんの受賞理由を大きく3つに分けて解説しています。
1つは未知の作家たちを紹介したこと。ポール・オースターやスティーヴ・エリクソン、レベッカ・ブラウンなどの作品を柴田さんの訳で初めて知ったという人も多いのでは。
2つ目は翻訳を通じた日本語の創生。“原作者の「声」に誠実に寄り添いつつも、英語と翻訳された日本語の間の緊張を失うことなく、わたしたちに透明で美しい言葉の世界を送り届けてくれた”と評される柴田さんの訳は、原作の面白さだけでなく、日本語それ自体の面白さも再発見させてくれます。
そして3つ目が、日本とアメリカの現代文学の紹介と交流にも力を入れていること。柴田さんが責任編集を務める文芸誌『MONKEY』や『モンキービジネス』の誕生は、互いの文化への知見を深めることはもちろん、国境を越えた作家やアーティストのコラボレーションによる新たな作品の誕生にもつながりました。
■受賞コメント
翻訳や編集などこれまでのさまざまな活動が実を結び、今回の受賞につながった柴田さん。ここでは授賞式での柴田さんのコメントをご紹介します。
“第一回は村上春樹さん、前回は伊藤比呂美さんが受賞なさり、毎回素晴らしい創作者の方が受賞されている坪内逍遙大賞。ところが、今回はなんの創作もしない翻訳者が受賞してしまった。これが他の翻訳者が受賞したならば「坪内逍遙(大賞)素晴らしい!」「お見事!」と言って回るところなんですけども、自分が受賞してしまったので、そういうわけにはいきませんね。
今回の受賞を通して、日本で翻訳者の存在の意義というものがいかに認められているかということを改めて実感した次第です。なので、この賞は僕個人が受賞しましたけれども、すべての翻訳者を代表して受賞したつもりでおります。翻訳者というものをこういった重要な賞の対象に入れてくださった選考委員のみなさまと、賞に関わっているすべてのみなさまにお礼を申し上げたいと思います。
パンフレットを拝見すると、文芸誌の編集の仕事も評価して頂いたように思います。ただ、編集者としては、「なんちゃって編集者」といいますか、自分が好きなものを訳し、自分が好きな書き手に依頼するだけで、あとの面倒なことは全部、他の編集者たちに任せるという、「良きに計らえ」という感じの「バカ殿編集者」なんです。
なので、こちらはすべての編集者を代表してというのはやや言いづらいのですが、強いて言えば、日本で日本語の文芸誌を編集し、アメリカで英語の文芸誌を編集、出版する。そして、毎年主にアメリカやカナダで、日本の作家や海外の作家に交流してもらうという場を提供してきたということを評価頂いたのではないかと思っております。
というわけで、すべての翻訳者のみならず、すべての編集者を代表してこの賞を頂いたと思っておりますので、編集者や翻訳者に「賞金貰ったろ?おごれ!」と言われたら、喜んでおごろうと思います。どうもありがとうございました。”
ときに翻訳家、ときに編集者と役割を変えながら、長年さまざまな言葉を生み出し続けてきた柴田さん。この度は本当におめでとうございます!
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