「金継ぎ」は何をつなげるのか?【ナカムラクニオ金継ぎ講座レポート】


「金継ぎ」は何をつなげるのか?
 Rainy DayBookstore & Café金継ぎ講座レポート

文:ナカムラクニオ


「ぱりーん!」大切な器が割れた時って、ショックを受けたり、落ち込んだ気分になったりしませんか? しかし、「金継ぎ」という魔法の技は、器を復活させ、さらに美しく仕立て直してくれます。西麻布のRainy Day Bookstore & Caféでは、11月26日に荻窪のブックカフェ「6次元」店主ナカムラクニオ「金継ぎワークショップ」を開催しました。今回はその技法とイベントの様子をご紹介します!


■ 「金継ぎ」って何?

割れたり、欠けたり、ヒビの入ってしまった陶磁器を金や銀などで装飾して仕上げる日本古来の修理方法「金継ぎ」。地震が多い最近の日本では需要が増え続け、全国でブームとなっているのです。

「金継ぎ」というと割れた器の欠片を「金」そのもので繋ぎ合わせるの?と考える人も多いと思います。しかし、接着に使うのは「漆(うるし)」。古代から接着剤として使われてきた木の樹液です。金は、最後の仕上げの時にだけ使います。 金継ぎは、室町時代以降日本で親しまれてきた伝統的な器の修理法。茶道の世界ではわざと器を割ってひびを景色として楽しんだり、「呼び継ぎ」という技法で別々の陶片をつなぎ合わせて、趣の異なる器を作り上げ、お客さまをもてなしたという逸話もあります。また、金継ぎが施された器は、所有していた茶人によって名前が付けられ、価値が高まることも多いのです。つまり、金継ぎとは修理しつつ、壊れた器を美しい景色に見立てるという日本独自の「美意識」そのものなのです。


■金継ぎはカンタン?

「漆」を使うってことは、かぶれますよね? 時間かかりますよね? とよく聞かれますが、今回のワークショップは、かぶれない「新うるし」を使った簡易的なやり方。材料は、東急ハンズやホームセンターなどで手に入ります。すべて揃えても3000円程度(本漆を使った金継ぎの10分の1程度)です。

【材料一覧】
◎ふぐ印の新うるし(金粉付)
◎ふぐ印うすめ液
◎アロンアルファ
◎合成樹脂(パテ)
エポキシパテ(セメダイン金属用)。
あるいは、Devconマジックボンド(食品衛生法規格適合)
◎紙やすり(耐水) →400番(荒)1000番(細)
◎筆(0号)
◎パレット

材料はこれだけ。簡易的な金継ぎは、身近にある道具で挑戦できるんです。
※食器は直接口に触れる可能性が高いため、食品衛生法に基づいた材料を選ぶようにしましょう。器全体が割れているものは、あまり向いていません。


■How to Kintsugi?

「金継ぎ」は、器だけでなく、自分の心の傷を修復する技術です。
傷を景色に見立て、壊れた器の中に新しい美を発見するのが重要なポイント!

<STEP①> つなげる


2層に分かれたエポキシパテを指でこねて混ぜ合わせ、欠けた部分に埋め込みます。ひびには押し付けて表面を平らにするのがポイント。割れたものは接着剤で張り付け、マスキングテープで固定。乾いたら、接着面にエポキシパテを塗り込み平らにします。パテは速乾性なので、乾かないうちに、はみ出たパテを拭き取りましょう。

<STEP②> みがく


すぐにパテが固まってくるので、耐水性のサンドペーパー(400番程度)に水をつけながら、こすって表面を滑らかにします。素焼きや磁器などは特に要注意。本体そのものを削ってしまわないように気をつけましょう。器の形に合わせて削りながら整えていきます。特にアウトラインの形の美しさを考えながら削るのがポイント。

<STEP③> ぬる


新うるしと金粉(真鍮粉)を1:1の割合で小皿に入れて、少しずつ薄め液を加えながら混ぜます。粘り気が出てきたら、極細の筆(0号)を使って、パテの上に塗っていきます。ポイントは薄くぬるというより、置くような感覚で作業していきます。何度もベタベタと塗るとムラが出来てしまうため、一気に仕上げた方が美しく仕上がります。心を「無」にして、作業しましょう。ヒビ割れた箇所は、一本の線を塗るというよりも、点をつなぐような感覚で描いていくと味のあるラインが出来上がります。ひびは、川や木の枝を思い出しながら、絵画として描くと美しい線が引けます。その後、1~2日置いてしっかり乾燥させます。つやを出すため金継ぎした部分にオリーブオイルなどの植物油を塗って、柔らかい布で磨けばピカピカになり完成。電子レンジや食器乾燥機などは使わないという配慮も必要です。


このような粉々に割れた器が……なんと!


こんな美しい器に蘇ります。魔法のような技法です。


今回のワークショップには性別を問わず、子どもから大人まで幅広い層の方々に参加して頂きました。持参した器と向き合い、作業に没頭するみなさんのまなざしは真剣そのもの。

完成後にはティータイムと発表会。お茶とお菓子を楽しみながら、それぞれの自信作の発表&講評タイム。参加者のみなさんからは「元の器より美しくなった」「大切な器だったので捨てなくてよかった」などいろいろな感想が聞けました。

スイッチ・パブリッシングでの金継ぎワークショップ第2弾も検討して頂けるとのこと。詳細が決まり次第、随時ホームページやSNSを通じて告知をしていくので、今回参加できなかった、次は参加してみたい!なんて方々は今しばらくお待ちください。

最近では、海外からの問い合わせも多く、被災地の金継ぎボランティア活動も行っています。
http://www.spoon-tamago.com/2016/04/22/kintsugi-the-japanese-art-of-repairing-broken-ceramics/

また世界にこの魅力的な日本文化を広めるべく、英語でも「kintsugi(金継ぎ)」普及活動中です。何か海外に紹介する機会があればぜひご連絡下さい。
http://asia.nikkei.com/Life-Arts/Arts/Japan-s-reborn-ceramics-that-weld-past-to-present

器は身近な存在であるとともに、日々の何気ない暮らしの思い出を受け入れてくれる大切な道具。もしあなたの戸棚の中に、割れてしまったけれど、思い出が詰まっていて捨てられない器が眠っているならば、「金継ぎ」で新たな生命を吹き込んであげてみてはいかがでしょうか?

何度も言いますが「金継ぎ」は、器だけでなく、自分の心の傷やひびを修復し、景色として見立てる技術。復習より修復することが大切なんです。


<プロフィール>
ナカムラクニオ
1971年東京生まれ。映像ディレクター/荻窪のブックカフェ「6次元」店主。著書は『人が集まる「つなぎ場」のつくり方―都市型茶室「6次元」の発想とは』(CCCメディアハウス)、『さんぽで感じる村上春樹』(ダイヤモンド社)、『パラレルキャリア』(晶文社)、責任編集短編小説集『ブックトープ山形』(東北芸術工科大学)など。金継ぎ作家としても活動し、全国でワークショップを開催中。