編集後記――発想する筋肉
『SWITCH』11月20日発売号「特集:山田洋次 映画という夢に出会うために」
リチャード・ギアが“寅さん”に扮したサントリーの炭酸飲料「オランジーナ」のテレビCM。数年前に放映がはじまった時、意外すぎる組み合わせに驚いた人も多いのではないでしょうか?
この斬新なCMを生み出したクリエイティブ・ディレクターの崎卓馬さんは、制作にあたって山田洋次監督と何度も打ち合わせを重ねたそうです。その打ち合わせのたびに、崎さんは山田監督の“すごさ”に驚かされたと言います。何時間もぶっ続けでさんざんアイデアを出し尽くし、「今日はここまで」と解散しても、数時間経つと山田監督からまた電話がかかってくる。「いいアイデアを思いついた」と。「発想する筋肉がここまでついている人を僕は知らない」と崎さんは言います。
崎さんはJR東日本「行くぜ、東北」シリーズや、サントリー・オールフリー「これでいいのだ」シリーズなど、私たちが普段よく目にする広告をたくさん作ってきたクリエイターです。その崎さんをしてそう言わしめるのですから、よほど“すごい”のでしょう。
今回の特集のコンテンツの一つ、山田監督に半世紀の映画作りを振り返ってもらったロングインタビューでは、崎さんにインタビュアーをお願いし、崎さんが感じた“驚き”を質問に変えて投げかけてもらいました。企画、脚本、演出、役者など、映画作り全般に話が及ぶ、貴重なインタビューとなりました。
1961年に『二階の他人』で映画監督デビューした山田監督は、その後半世紀にわたり、80以上もの映画を作り続けてきました。12月12日に公開する新作『母と暮せば』に続き、来年3月にはその次の新作『家族はつらいよ』の公開も控えています。84歳となった今もなお、現役で、しかも第一線で映画を作り続けている。世界の映画界を見渡しても、そんな映画監督はほとんどいません。
なぜそうやって映画を作り続けることができるのか。そして、なぜその映画を確実に観客に届け続けることができるのか。その創作の秘密の核に、崎さんの言う「発想する筋肉」があることは間違いありません。思えば、今回の特集に登場した吉永小百合、坂本龍一、二宮和也、黒木華、瀬戸内寂聴、森本千絵、立川志らく、そのすべての人の言葉の端々に、それを裏書きする言葉が散りばめられていました。
発想する筋肉。それは何も映画に限ったことではなく、すべてのものづくりの原動力となりうるはずです。
(SWITCH 編集部)
『SWITCH』12月号「特集:山田洋次 映画という夢に出会うために」
ご購入はこちら